ひとり、ふたり、兄弟たちは死んでいった。 残された僕には何が出来るだろう。 Apoptosis 「ここ、どこだよ」 「病院ですよ」 「あ、俺、倒れて……お袋たちは?」 「おかしいと思ったことはありませんか。あなたのお父上とお母上はどちらかといえば背も高くなければスレンダーでもない」
「――――何が、言いたいんだよ」 「その答えがこれです。あなたはあなたのご両親がデザインされた。作られた子供なんです」 「あなたはもうすぐ死ぬんですよ」
「――――ふざけんなよ、あんたに何が分かるんだ! 何にも出来ねえ無能の癖に!」
「おれ? おれは悟空。おれも兄ちゃんと一緒でさ、ここに置いてかれたんだ」
「……お前は、知ってるのか?」 「死ぬってこと? 知ってるよ」 髪色、髪質から肌の色、眸の色や声までも正確に我が子をデザインする行為、及びそれに因って生まれた子 しかし原因不明の病に侵され、寿命が極端に短いことが研究、発表されており、現在は公には行われていない 「細かな容姿から髪の色、眸の色まで精密にデザインされた子供なんて愛せるかしら」 「……何が言いたいんです」 「私だったら無理だわ。たとえ、少し不細工なところがあったとしても、そのままの子供がいい」
「捲簾君、もう止めて下さい! お願い……先生は!」
「あなたは黙っていなさい」 「でも!」 「これは命令です」 「ケン兄ちゃん、天ちゃんに意地悪言うのやめてあげてよ」 「……何でだよ。あんな最低な奴に気ィ遣う必要なんてねえだろ」 「天ちゃんはサイテイじゃないよ。……おれの治療費も、ケン兄ちゃんの治療費も、払ってるのは天ちゃんなんだ」
「あんたは一体誰なんだ」
「……さあ。ただの“最低な奴”なんじゃないでしょうか」 「……おい、しっかりしろよ……目開けろよ、天蓬!!」 「天蓬先生も、あなたと一緒なの……初代のデザイナーズチャイルドなのよ。先生の命ももう長くないの……!」 「八百鼡さん、あなたは下がっていて下さい。後は僕が……自分で話します」
「初代のデザイナーズチャイルドは所謂試作品でした。僕は三体いた内の一人です」
「―――――何で、黙ってたんだ」 「この愚かなシステムを開発した開発者はまず始めに試作のため自らの精子から三体の試作品を作った――そのうちの一体が僕です」 「何?」 「僕は開発者の、息子です。あなたの最も忌むべき存在のね」 「弟は二歳で、兄は十五歳で死亡が確認されました。それをあの男は失敗作だと、ごみのように捨てた」 「僕は出来るだけ長く生きて、死ぬ前には今現在生存している兄弟たちが平和に暮らせるような薬を開発しなければならない」 「……兄弟?」 「ああ……あなたは、そんな風に言われるのは心外かも知れませんね」 「前より確実に発作を起こす回数が増えているんです……先生は、きっともう分かってる」
「あんた、死ぬのかよ。このまま――――――……」 「僕はもう兄の二倍近く生きました。そろそろ限界なのかも知れません」 「ふざけんなよ! そんなの……」 「研究所のメンバーが薬の研究の件は引き継いでくれます」 「……っ、そんなことじゃない!」 「幾らか、僕の財産も残っています。好きに、使って下さい」
「僕がこんなに長く生きなければ、父がこの研究を世に出すことはなかった」
「僕が生きたせいであなたはこんなにも苦しまなければならない」
生きていることが地獄で、それは絶えることない懺悔の日々でした。
「どうして泣いているんですか」 「うるせえ」 「捲簾」 「何だよ」 「大好きですよ」 「……」 「別の形であなたと会いたかった」 (泣かないで、あなたには生きて欲しいから) 「ごめんなさい、……ありがとう」 …というパラレルを書きたかったその2。「H.O.P.E」という小説をご存知だともっと理解できるかも。 2007/10/19 |