艶めく黒髪が白くまろい頬を滑り、くるくる動く眸は仔猫のよう。お酒でほんのりと薔薇色を滲ませた頬に、恋人も御満悦です。濡れた桜色の唇はガラスの縁から離れると、ほう、と静かな吐息を漏らします。彼は自分がお酒を楽しむことも忘れて愛する恋人を見つめるばかり。実は彼は今日、人生におけるある一大決心をしているのでした。それはもう、数ヶ月前からずっと考えていたことなのです。今夜こそその決着をつける日です。憎らしいほどの可愛さの恋人を前にして、深呼吸を一つ。
「……天蓬」
「はい、何ですか?」
「俺たち、付き合い始めて四年になるだろ」
「そうでしたっけ?」
 あまりお酒に強くないというのにお酒が大好きな彼女は、あまり難しいことは好きではありません。既にお酒が入ってふわふわし始めた彼女はぺろりと唇を舐めて、ちょこんと首を傾げます。出鼻を挫かれた彼は少し挫けそうになりながらもテーブルの上で組んだ手をぎゅっと握り締めて、諦めてもう一度トライします。だって彼はスポーツマン精神の持ち主なのですから、こんな小さなことでは負けないのです。
「そうなの」
「そうなんですか……すごく長く一緒にいるんですね。不思議な感じ」
 十九で出会ってお付き合いを始めた二人は、もう立派な社会人。ほわほわと彼女は笑っていますが彼の方は本気です。彼の決心とは勿論、プロポーズ。漸く収入も安定し始めて、立派に自立した生計も立てられるようになりました。なので、そろそろ彼は愛する相手と共に暮らしたいと考え始めているのです。彼女の方は何を考えているのかさっぱり分かりませんが? 再び挫けてしまいそうになりながらも踏み止まり、少しだけ身を乗り出しました。心拍数も最高潮な今、もうこの勢いに任せて一気に言ってしまいたいのです。そして早く楽になりたい一心で必死です。
「俺は真剣に考えてる。……お前との結婚を」
 美味しい赤ワインに頬を緩めていた彼女は、グラスを手にしたまま目をぱちぱち。ほんのり染まった頬はその言葉によるものではないのが残念ですが、きょとんと目を見開いた彼女はこちらの頬が緩むような愛らしさです。
「捲簾……」
「結婚しよう。絶対に幸せにする」
 隣のテーブルの女性はこっそりと耳を欹てていたのでしょうか、同席の女性と目を見開き視線を交わしています。彼女らが、本来彼が望む意味で頬を染めるほどにそれは男前なプロポーズだったのです、残念ながら本命の目の前の彼女は、グラスを手にしたまま未だ固まったように目を見開いています。それほどまでに衝撃的だったのでしょうか。正直なところ、彼女も少しは考えているだろうと思っていたので彼は少々焦っておりました。まるで今までそんなことなど露ほども考えたことがなかったと言わんばかりの反応に、僅かばかりの期待が萎んでいくのを感じました。しかし、漸く我に返ったように瞬きをした彼女は、グラスをテーブルに置き、テーブルの上で手を組みました。
「……本当に、ですか?」
「勿論だ」
「ええと……それなら、ちょっとお耳に入れたいことがあるんです」
 突然のことに彼もびっくり、彼女の方は何故か少し戸惑ったような様子です。
「はい?」
「だから……その、聞いていただきたいことがあるんです。そうでなければ結婚だなんてとても……」
 少しの歩み寄りが見えたのにまた引いていってしまいそうな彼女に慌てて彼も身を乗り出します。
「え、何……あ、何か家が複雑とか」
「ええまあそんなようなもので、……でもここじゃちょっと……」
 歯切れが悪くもじもじと指先を擦り合わせるその仕種はいつも堂々とした彼女らしくありません。しかし少しでも躊躇った様子を見せれば彼女は少し開き始めたドアの向こうに引っ込んでしまいそうだったので、慌てて彼は席を立ちました。会計を済ませ彼女を連れてレストランを出ます。どこに向かうでもなく彼女の手を引いて、道路を歩きます。幾ら聡明な彼とは言え、人生初のプロポースを終えたばかりで頭の中も混乱しているのです。
「捲簾、捲簾、待って、聞いてください」
 そう声を掛けられて漸く、彼女の手を強く握っていたことに気が付いてぱっと手を離します。その白魚のような手に痣でも出来ていたら大変です。ゆっくりと立ち止まり、後ろを歩く彼女を振り返りました。頬を紅く染めた彼女は、はあと一つ吐息を漏らしました。そしてそっと彼を見上げ、上目遣いであっさりと一言。
「僕は魔女なんです。あなたがそれを信じてくださらないと、結婚は出来ないのです」
 奥様は魔女。これがその始まりの話でございました。

 遥か昔、人間に自分が魔女だと知られてしまえば人間界から去らなければならない云々という掟があった時代もありました。しかしそれでも人間の男性とのロマンスを夢見る魔女は後を絶たず、法を破って人間界へ出ていってしまう魔女が増えてしまったのです。規制をしたって無駄なのです、恋する心は止まらないのですから。結果、魔法界から去っていく魔女を少しでも引き留めるために新たな規律が出来たのでした。
“人間と結ばれる為には、自分の愛したたった一人の相手に自分の身分を明かすこと。信じて貰えなかった場合、拒否された場合即刻魔法界に引き戻される”
 チャンスはたった一度きり。それに失敗すれば人間界へ出かけることも規制されるのですから、誰も彼も皆必死です。彼女の場合、ロマンスを夢見たというよりも、最初はただの興味でした。単純に人間の男に興味があったのです。漸く人間界への留学を許され、早速研究対象を探していた彼女は、最初は求められるがままにお付き合いを始めましたが、次第に彼の真摯さや優しさに心惹かれ、憎からず思っていたのです。結婚を求められて自分が応えたいと思うような相手など、もう後にも先にも現れないだろうと、特に考えることもなくその一度のチャンスに掛けたのです。どうせ魔法界に帰ればお見合い地獄なのは決まっているのですから、天蓬だって一生に一度はドキドキの体験をしてみたかったのです。




「う……うん? 何? もう一回」
「だから、魔女」
「ええ……」
 多少変なところのある女だとは思っていましたが流石に青天の霹靂。まさかこんな酷い妄想癖まであるとは思ってもみなかった捲簾は困り果てて頭を掻くしかありません。自然、視線がつつ、と横に逸れてしまいます。それを不思議そうに暫く眺めていた彼女はその内不満気に表情を変え、落胆したように肩を落として溜息を吐きました。バッグを胸に抱えて俯き、伏せられた瞼から流れる繊細なつくりの睫の先は、小さく震えています。
「信じてくれなくて当然ですよね……いえ、それが普通なんです。でも、信じてもらえないのなら僕はただの妄想癖の変人にしか見えていないんでしょうから……、もうお付き合いは止めにしましょう。あなたにも、僕にも、それがきっと一番いいんです。今まで本当に楽しかったです、ありがとうござ」
 さっさと別れの言葉に移っていく天蓬に、漸く我に返った捲簾は慌てて手を伸ばします。それは慌てます。自分が呆然としている間に彼女がさっさと帰ってしまいそうになったのですから、とりあえずその肩を掴んで言葉を止めさせます。半端なところで言葉を中断させられてしまった天蓬は不思議そうに目を瞬かせて、きょとんとして捲簾を見上げました。
「ちょっと待てって、誰も別れたいなんて言ってねえぞ」
「でも……そんな、変人だと思われながらお付き合いを続けるなんて嫌ですから、もう僕のことは忘れてください」
「いやいやいや」
 妄想癖云々以前に前々から変人だとは思っていたので、それは今更な話でございました。天蓬の両肩を掴んでがっくりと項垂れる捲簾。しかしその変わり者具合を差し引いても彼女が好きで、愛しくて、大切だったのです。今少々、唐突な出来事に頭がついていっていないだけでありまして。
「いいって言ってるじゃないですか! あなたはもっと真っ当な女の子とお付き合いするのがいいんです!」
「信じるから!」
 一人で勝手に話を決めていこうとする彼女に苛立ち、捲簾はそう強い語調で言い放ちました。まさしく勢い任せです。その勢いに一瞬怯んだ様子だった彼女でしたが、すぐに怒ったような表情で顔を逸らしてしまいました。信じてない、と呟き、唇を尖らせます。図星の捲簾はそんな様子の彼女を見てほとほと困り果ててしまいました。そもそもそんな非現実的なことをさあ信じろと言われてもそうそう出来ることではないのです。それが普通です。暫し考えた捲簾は、とりあえず吹っ掛けてみることにしたのです。
「じゃあ……何かやってみせてくれよ。それとも、こんなところじゃ何にも出来ねえか」
 その言い方が癇に障ったのか、彼女はむっとしたように眉根を寄せました。そして咳払いを一つした後、ちらりと少し不機嫌そうな目で捲簾を睨み上げます。こんな状況下でありながら、この角度から見るのも結構いいと思ってしまう辺り頭の中は冷静になりつつあるのかもしれません。元々深く物事を考えない質なのです。
「へえ、何をすれば信じるんですか。そうですね、あなたの鼻穴からお花を生やしてあげたら信じますか?」
「いや、そういうおふざけは」
 がっくりと肩を落とす捲簾を見て少し満足げに笑っていた天蓬は、ふと何か思い付いたように「あ」と声を漏らしました。そしてぎゅっと両手で捲簾の右手を握って、目を輝かせます。そのきらきらと輝いた笑顔は美しいのに何故か寒気が伴いました。これは男の勘なのです。
「あなた、高いところ嫌いですよね?」
「え、あ、……いやお前まさかッ」
「夜の空中散歩といきましょうか」
 片手で捲簾の手を握り、片手を空に突き上げた天蓬は足を一歩前に踏み出しました。その華奢なパンプスは何故か、アスファルトに降りることなく“空中”を踏んだのです。その手に引かれるがままに一歩踏み出すと、捲簾の片足もまた地面でも空気でもない何かを踏みました。アスファルトほど硬質でもなければ、綿のように柔らかいでもない、まるで水の中を歩いているかのような気分。更に手を引かれてもう一方の足も踏み出します。その足は更に上を踏み、一歩踏む度に段々と高度が上がっていきます。階段を昇っているというよりは、段々と浮かび上がっていくような心地です。言葉を発することも出来ずにいる捲簾に天蓬は嬉しそうに笑いました。彼女のスカートは下からふわりと煽られ膨らみ、中々刺激的な状態ですが頭の中が考えることで一杯な捲簾はそれに反応することもありません。気付けばふわふわと呆気なく近くのビルを超えていきます。高所恐怖症である捲簾でも、現実感のまるでない今の状況には恐怖というよりも茫然自失状態でした。自分の足が宙を掻き、まるで無重力空間をさ迷っているようなのです。
「あ、僕の手を離すとまっさかさまですから」
「ッ!」
 咄嗟に天蓬の手を強く握り返すと、彼女は楽しそうに笑って「冗談ですよ」と笑い混じりに言います。小悪魔なのです。しかしそう言われたところで離すことも出来ずにその手を強く強く握って、指を絡ませます。それを黙って見つめていた天蓬は、少し切なげに微笑みました。彼女の横顔は通り掛かりのビルの屋上のライトで照らされます。
「まあ……実際、止めておいた方がいいんじゃないかと」
「え?」
「結婚なんて」
 そう言って彼女は笑い、ふわりと軽くビルを越えていきます。繋いだ手に縋り付いて辺りを見渡していた捲簾は天蓬の言葉に目を見張りました。
「子供は出来ても人間の子は出来ませんし、出来た子供はあちらの学校に何年も在籍させなければいけないので人間界にはいられません。やっぱり嫌だと思ったって簡単には離婚出来ないんですよ。習慣から常識から何もかも違うんですから……長持ちしませんよ。人間同士だってうまくいかないことが沢山あるのに」
 いつも見上げてばかりいる高層ビルを横目に進むと、突然の風に流されて方向が変わりました。接近していたビルから引き離されるように風に流されながら進んでいきます。
「うちの母は人間で、父さんは結構地位のある良い家柄の魔法使いなんです。周りの反対を押し切って結婚したんですが、血を穢したと散々陰口を叩かれたみたいですよ。純血の血筋がそこで途絶えたわけなので」
 誰に向かうでもなくそう話した彼女は、小さく息を吐きました。そしてどこかへと向かってゆっくりと下降していきます。ゆっくりと、ゆっくりと羽根が付いているように高度が下がってゆきます。それにつれて、辺りが捲簾の家の付近の公園であることに気が付きました。
「さあ、散歩はお仕舞いです。……帰らなきゃ」
「帰る?」
「身分を明かすのは一度きりと決まっています。それで婚姻が成立しなかった場合は魔法界に引き戻されるのが規則」
 遠く、暗い海に小さなビーズが零れているように見えていた地上は段々と一つ一つのパーツが大きく、はっきりと見えてきました。近くの赤い屋根の家、桜並木の坂道に新しく出来たコンビニやアパート。そんな中に静かに存在する公園の噴水の前。天蓬に手を引かれゆっくりと下降していくと、そのうち静かに靴がアスファルトに触れて、小さくコツンと音を立てました。漸く戻ってきた重力に少し身体が重いような感じすら受けます。翻っていたコートは次第に落ち着き重力に伴って下に下り、ふわりと膨らんでいた彼女のスカートも落ち着きを取り戻して、揺れました。ずれたプリーツを手で払って直しながら彼女は小さく笑います。しかしついにその目がこちらを見ることはなかったのです。
「思ったより怖がらなかったですね、残念です」
「天蓬」
「これが人間界最後の夜なんて……もう少し遊べばよかったなあ」
「結婚しよう」
「何度言えば分かるんですか!」
 ばっと顔を上げた天蓬は、少し辛そうな顔で捲簾を睨みつけます。捲簾にはその目が何を思っているのか分からないのです。嫌なのか、嫌ではないのか。嫌なのだとしたら自分の身分など明かさずプロポーズされた時点で断ればよかったのです、そうすれば一度きりのチャンスを使うこともなかったのですから。未来に出会う、もっといい相手を待てたかもしれないのに。
「人間界だの魔法界だの、そういう面倒なことには興味がない。お前が、俺のことをどう思っているか聞きたいだけだ」
「あなたはこの難しさが分かってない」
「分かるわけねえだろ」
「離婚するにはあなたが死ななければならない、つまり死ぬまで僕から逃れられないんですよ」
「じゃあこれから先の俺の人生、お前にやる」
 非現実的な出来事に直面したばかりでしたが、基本的に物事は深く考えないようにする主義でございました。彼女が実は殺人犯だとかそういう倫理に反したことでもないのです。単に少し魔法が使えて、人間ではないというだけで。見た目も人間と何ら変わりありません。常々多少整いすぎているきらいがあると思ってはいましたが、それも人間ではないと思えば納得出来るようにも思うのです。何も問題ないのです。彼女が自分でいいと言うのなら。
「もう一度だけ言う。――――結婚してくれ」




「駄目だ」
「……父さんが何と言おうと、捲簾と結婚します」
「駄目だ駄目だ人間の男と結婚なんて許すか!」
「父さんだって人間と結婚したじゃないですか!」
 人間界に留学していた娘がたまにふらりと帰ってきたかと思えば突然結婚の話。お父上が目を白黒させるのも無理ありません。普段は泉を通して人間界にいる娘の様子を度々窺っていたのですが、近頃は仕事が忙しく、その監視を奥様に任せていたのです。その奥様はといえば、実に楽しそうな様子で横で茶を煎れています。知っていて黙っていたのだと気付いたお父上は苦虫を噛み潰したような顔をして煙草に手を伸ばしました。監視していることは娘には内緒なので、お父上は声を潜めて隣の奥様に問い掛けます。
「……八戒、お前いつから知ってた」
「え? そうだなあ、……人間時間でいう、四年前くらいからですか」
「ばッ!!」
 驚きに大きな音を立てて立ち上がったお父上に、ソファでクッキーに噛り付いていた天蓬が驚いたように顔を上げました。話の内容に気付かれてはいけないので、平静を装い再び椅子に腰を下ろしたお父上は、聞き捨てならない言葉をあっさりと口にした妻を更に問い詰めます。
「四年前って、丁度天蓬を人間界にやった頃じゃねえか!」
「そういうことです。でも四年間も浮気せずに天蓬を大事にしてくれたんですから、少しは信頼してもいいと思いますよ」
 彼女のことだからきっと相手の素行調査も余念がないのだろうと分かっていても、釈然としないのが親心です。
「なかなか情熱的なプロポーズでしたよ、ついかぶり付きで見入っちゃいました」
「……いつの話だ」
「一昨日の晩です」
 沈黙しながらお父上はそういえば、と思い返しました。いつもは夜まで自分がせっせと働いていればお茶を煎れに来てくれたり、夜食を差し入れたりしてくれる八戒が一昨日の晩だけは一度も顔を出さなかったのです。それを疑問に思うほどの余裕もなく仕事をしていた為、その時はどうとも思わなかったのですが、いざこうして考えてみると合点がいきます。一昨日の晩、いつもの如く泉の前で娘の様子を窺っていた八戒は、娘と人間の恋人のデートがあんまりいい展開だからとつい三蔵への差し入れも忘れて見入ってしまっていたのでした。
「天蓬はあなたに似て頑固ですから、周りからどう言われようと意思は曲げないと思いますよ……昔のあなたがそうしたように」
 そう言われると分が悪いのはお父上の方でした。何せ、若かりし日の彼もまた、人間界に留学中に見初めた人間の女性との結婚を周りからの反対を押し切って強行したのですから。その時の女性こそ今の妻である八戒、そしてその間に生まれた愛娘が天蓬なのです。勿論周囲からは反対の声が上がりました。寧ろ賛同の声は無に等しかったのです。一介の魔法使いであれば、そこまで反対されることはありません。何故彼の場合だけそんなに反対をされたのか。それは彼が魔法界でも屈指の名家の純血の魔法使いだったからでした。
「……苦しむことは目に見えている」
「天蓬は、苦難を避ける為に自分の意思を曲げるような子じゃありませんよ。あなたが思う以上にずっと強い子です」
「だが」
「三蔵」
 煎れた茶をお父上の前に静かに置き、くすくすと笑った彼女は、からかうように目を細めて言いました。
「あなたが反対してるのって、本当に相手が人間だからですか? あの子を奪っていく相手なら誰でも憎いのでは」
 痛恨のダメージを食らったお父上が机に沈むのをくすくす笑いながら見ていた八戒は、向こうで一人紅茶を口にしている天蓬にそっと近付きました。父親から理解が得られなかったことが不満なのでしょうか、拗ねたように唇を尖らせた天蓬の頭をよしよしと撫でます。すると、拗ねたような目をしたまま振り返った彼女はじっと八戒を縋るように見上げました。
「母さんも反対するんですか?」
「まさか、僕は反対しませんよ。あなたが選んだのなら。ただ……あの人が反対する気持ちも分かってあげて下さいね」
 複雑そうな顔をした天蓬はそれでも小さく頷いて、机に突っ伏したままのお父上を見つめます。
「……はい」
「心配しなくてもいいですよ、時間は掛かっても、いずれ分かってくれます」
 父さんが何と言おうと、などと言っていたものの、やはり天蓬も父親の反応が気になって仕方がないのです。そんな天蓬を微笑ましく見つめながら、子離れの遠い夫を思って小さく溜息を吐きました。全く昔からどうしようもない人なんだから、と八戒は机に懐いた金糸の頭を眺めて思うのです。









多少のお遊びです。ごめんなさい。        2008/02/17