※オリキャラが一人二人出ます(名前は無し)苦手な方はご注意下さい。暗いです※
















 シャリ、と割れて小さな破片になった硝子を踏む。それをブーツの踵でぐりぐりと踏み潰すようにしながら、目の前でぼんやりと立ち尽くしている青年の背中を見つめた。空虚、という言葉がよく似合う背中は、寒そうだった。今彼がどんな顔をしているのか知りたくて、しかしそれを見られるのを彼が善しとしないことも知っていたから、捲簾はそれに気付かない振りで足元に視線を落とした。彼が、自分に見せられるだけの偽物の笑顔を作ることが出来るまで。落とした視線の先は黒い。暗がりの中で黒く濡れている古い木の床は、日差しの下で見れば赤く染まっているはずだ。それを見て、顔を顰めるだけで跳び退ることもしない自分は、どこか精神が麻痺している。
 ここは小さな木造の校舎だった。幼稚園か、小学校か、あるいは私塾か。外の庭には遊具だったであろう塗装の剥げた金属の塊がごろごろと転がっている。室内に転がる小さなサイズの椅子や机は見るも無残だ。木造のせいもあり、ほぼ建物は全壊。殆ど壊れてなくなってしまっている壁から二人は中に入ったのだ。床板はあちこち穴が開き陥没している。屋根にも大きく穴が開いており、その穴から月明りが差し込んでいるのである。
 ぼうっと立ち尽くす彼の足元もまた、濡れている。丁度月の光を浴びる場所に立っている彼の足元は、やはりじわりと黒く変色しつつある粘りけのある赤だった。今にもそれが具現化して、蛇のように彼の足に絡み付いていきそうな気さえする。そんな風に思ってしまうほど、根を張ったように彼の足はそこから動かなかった。
「捲簾」
「……ん?」
「ここね、塾だったんですよ。この辺、学校がないですから」
 青年は、妙に明るい口調でそう言って、くるりと振り返った。夜半の月が、その白い面を照らす。
「子どもたちが毎日元気に遊んでいて、ピアノの上手な先生が一人いて」
 よくこの辺りを知っているようなことを言う彼に一瞬眉を顰めて、すぐに溜息を吐いた。どうせふらりと一人で下に降りた時のことだろう。溜息を吐いて、その無表情な笑顔を見つめる。
「逃げられなかったんでしょうか」
 捲簾は答えなかった。天蓬も答えを求めてはいない。そもそも答えは出ている。
 この辺一体は昨今の下界で多発する戦乱の渦に巻き込まれ、焼野原となっていた。そのうちここにも火が放たれて、この木造校舎は跡形もなくなってしまう。町には人の気配もありはしない。ただ、少しだけ不穏な空気が漂っている。どこかのスパイが町の様子を探っているのか。どちらにしてもここをすぐ離れた方がいいことは確かだ。……しかし彼はそんな捲簾の考えを知ってか知らずか、のんびりと昔話を続けている。ゆっくりと彼が視線を流した先には、黒いピアノが置かれている。それはその全壊の校舎の中で浮くほどに傷もなく、倒れることもなく部屋の中央に鎮座していた。
「……いつも、あれの周りに子どもたちが集まって、唄を歌ってましたね」
 優しい面差が、月光の下で人外の者のように目に映る。
 彼が、やっと一歩足を踏み出した。パキリ、と落ちていた木片が足の下で割れる。彼のブーツの底が粘っているように見えるのは気のせいではない。粘つく靴底で木片や硝子片を踏みながら、ピアノの横へ辿り着いた天蓬は、その黒い側面に手をついた。
「逃げられなかったんですね」
 今度は疑問形ではなかった。よくよく目を凝らして見ると、鍵盤の上にもべったりとどす黒いものが付着している。彼は躊躇う様子もなくピアノの前の椅子に腰掛けた。すると木製のそれは僅かに軋みを上げた。白い指が鍵盤に乗せられる。その黒い液体は乾いてしまっているようだった。
 湖面に石を投げ込んだ時のように、音の波紋が広がってゆく。天蓬の人差し指が押した鍵盤が音を奏でているのだ。
「戦を生業としている僕が言うのも、皮肉ですが」
「……」
「平和はどうして続かないんでしょう」
 天蓬が鍵盤から指を離す。音はゆっくりと空気に溶けるようにして消えていった。
「知能を持った生物が生きているからだ」
「……」
「お前の言う“平和”が、戦争がないことを差すのだとしたらの話だがな」
 捲簾はそう言って嘆息した。そうは言ったものの誰が平和の定義など説明出来るだろう。各々の中で“平和”というものは違うのだ。
 戦争がない。世界中の人間が幸せに生きる。自分の周りの人間が幸せであればいい。自分がよければそれでいい。どれにしても、天蓬ではないが戦を起こしている張本人である自分が平和を望むなど、確かにおこがましい話だ。
 革張りの椅子に座っている天蓬は、僅かに俯いていて表情を窺うことが出来ない。
「優しい先生でした」
「うん」
 捲簾が足を一歩踏み出すと、パキリと音を立てて木片が割れる。それに躊躇することもなくそのまま彼の背後に歩み寄った。彼の肩越しに見下ろしたピアノの鍵盤は赤黒く変色している。その上に載っている彼の白い指が何だかミスマッチでおかしかった。
 振り返ることもしなければ反応すら返さない天蓬に後ろから抱きつき、彼の頭に顎を乗せる。
「お前、何か弾けないの?」
「“ねこふんじゃった”でいいのなら」
「雰囲気ねえなあ」
 思わず笑い声を漏らすと、天蓬の肩も僅かに揺れた。彼の右手の指がゆっくり、滑らかに鍵盤の上を滑り始める。
 その凄惨な場所にそぐわない、とてもとても呑気で幸せな旋律だった。




 子供の声に、天蓬は顔を上げた。ふと見てみれば、少し離れたところで、小さな子供たちが集まって木の上を見上げている。
「あんなところじゃ取れないよー」
「誰かが昇ればいいじゃん」
 天蓬はその木を見上げた。あまり枝振りが良いように思えない。子供の体重ならさほどではないとは思うが、それでもあの高さから子供が落ちたら危ないだろう。咥えた煙草が灰を落とすのを見て、その煙草を携帯灰皿に押し付け、消した。そして脇に置いていた上着を持ち上げてゆったりした歩調で子供たちに近付いた。
「どうしました?」
 声を掛けてみる。頼りなさげに振り返った少女が、天蓬を見て一瞬怯えに似た反応を返した。何か威圧するようなものがあっただろうか、と思っていると、隣にいた少年が、同じく訝るような視線を天蓬に向けた。しかしそれでも、木の上を指差して言った。
「羽根が……」
「羽根?」
 見上げてみれば、確かにかなり上、枝の間に白いものが挟まっている。バドミントンの羽根だ。高く上がりすぎてしまって子供たちでは取れないのだろう。
「……ちょっと待ってなさいね」
 そう言って、脇に抱えていた上着をその少年に手渡した。そしてそのままその木に手を掛け、登り始めた。少年たちがきょとん、とした顔をしている。その間にもどんどん登っていった天蓬は、手を伸ばしてやっと届く場所にある羽根を指先でやっと挟んで取り上げた。そして下で不安そうにこちらを見上げている少年たちに向かって投げる真似をして見せた。
「落としますよー」
 そう言うと、上着を持っている少年とは別の少年が駆けてきて、手を広げた。そこを目掛けて羽根を落とすと、少し風に煽られたものの無事に少年はそれをキャッチした。それを確認してから今度はするすると木を降り始めた。ブーツの足が土の地面を踏むのを確かめてから、木から両手を離す。幾らか木屑が付いているその手を叩いて、戸惑ったようにこちらを見ている少年から上着を受け取った。
「もう上げちゃ駄目ですよ」
 そう笑って言うと、一瞬息を呑んだようだった少年は少しだけ頬を赤くして、それでもしっかりと「ありがとう」と呟いた。すると羽根を受け取った少年と、少し怯えた風だった女の子も次々と同じように謝意を伝えてくれた。
「せんせー、あっちあっち! 羽根が……あれ」
 どうやら別の子が大人を呼びに行っていたようだった。走ってきた女の子は、先程の女の子と同じように僅かに顔を強張らせた。そしてその女の子の後ろから、呼ばれてきたのであろう男性が走ってくる。そして子供の様子と、天蓬とを見比べた。妙な状態になっているなあと他人事のように静観していると、先程まで怯えていた少女が男性に向かって、隣の少年が持っている羽根を指差して言った。
「あのおにいちゃんが、とってくれたの」
 お兄ちゃんですか、躾がなってますね。そんな風に考えていると、男性が天蓬に向き直って、人の良さそうな笑みを見せた。
「そうだったんですか、すみません。ありがとうございました」
「いえ、こちらこそ何だか怖がらせてしまったみたいで」
 そう言うと、男性は一瞬顔を強張らせたものの、次の瞬間には困ったような笑みを浮かべていた。
「さ、みんな遊んでおいで。また木の上に上げないように、少し離れてね」
「はーい」
 中にはまだ天蓬が気になるのか、振り返り振り返り走って行く子もいる。それに向かって手をひらひら振りながら、隣に立つ男性を見上げる。自分より僅かに背が高い。
「すみませんでした……この辺の方では、ないですね」
「ええ、まあ……ちょっと遠くから」
 上から、と言うわけにもいかず、天蓬はヘラヘラ笑ってそう答える。男性も少しだけ苦笑した。
「最近、この近辺は物騒なもので」
「変質者とか、ですか」
「……いえ、戦火が……この町に至るのも時間の問題だろうと言われていて」
 それで合点がいった。少女が怯えたのはこの軍服。敵軍の兵士では、と勘違いしたのだろう。それも無理はない話だ。
「それで怖がらせてしまったんですね」
「いえ、こちらこそ不快にさせてしまったでしょう」
 どこまでも腰が低く、男性は頭を下げた。それを見て天蓬は僅かに痛みを覚えた。
「やめて下さい、あなただって被害者なんでしょうから」
 そう言うと、彼は泣くのを堪えるように笑って、困ったなぁと呟き、頭を掻いた。そしてゆっくりと、子供たちが走り去っていった方向を目を細めて見つめた。
「私なんかは、いいんです。ただ……あの子たちが」
 そこまで言って、彼は小さく唇を噛んだ。困った時に笑うのが癖なのだろう。
「あの子たちは皆、親を戦で亡くしているんです。それが理解出来ないほど幼い子もいる」
 天蓬はゆっくりと瞼を伏せた。他人事ではないのだ。自分だって確実に誰かの“加害者”になっているはず。
 その後、じっと子供たちが遊ぶのを見つめていた青年は、少しだけ笑って首を振った。
「でも私は誰も責められません」
「……でも」
「元兵士なんです」
 ゆっくりと目を開いて、青年を見上げる。ぎこちなく笑っていた彼は、視線を自分の右脚に落として、そっとその膝を撫でた。何も言わずともその動作で分かる気がした。
「……義足ですか」
 さっき、成年男子である彼が小さな少女に走ることで追いつけなかったのは。
 彼はゆっくりと頷いてじっとその脚を見つめる。天蓬はゆっくりと瞬きをした。
「私もいつかの戦場で、敵国に彼らのような存在を作ったでしょう。……然すればこれも定めと享受するしかないような気がするんです」




「もし誰かを殺したら、誰かに殺されても文句は言えないと思いますか」
「……さあな。場合によるんじゃねえの」
「曖昧ですね」
「俺は聖人じゃねぇからな、黒白を明らかにする資格なんかねぇよ」
 そうはっきり切り捨てて、捲簾は煙草に火を着けた。
「ただ言えんのは」
「何ですか」
「誰にも誰かを殺す権利なんてないってこった」
 捲簾の煙草の火が、暗いその場を一瞬赤く照らした。冷ややかな天蓬の面差に僅かな赤みが点る。
「……じゃあ、世の軍人たちが行うことは越権行為ですか」
「俺が言ったのは綺麗事だからな、そうなればいいなってレベルでしかない。一般には通用しねぇよ」
「……」
 天蓬は舌で唇を湿らせた。微かな赤みが暗闇に浮かぶ。目はゆっくりとその部屋の端から端までを辿っている。彼の視線はその廃墟の学校を構成する一つ一つの物を愛おしんでいるようだった。
 その後、天蓬はゆっくりその椅子から立ち上がった。捲簾も煙草を揉み消して身体を外に向ける。外の気配が不穏だ。
「ゆっくりしてはいられないようですね」
「ほら、お前がモタモタしてっから」
「すみませんねえあなたと違ってナイーブなもので」
「……あ?悪い、雑音が混じった。何だって」
「……」
 鈍い音が響いて、脛が酷く痛み出す。それを尻目に、先程まで沈み込んで浮上してこなかった男は颯爽と校舎の外へと歩き出した。月明りで明るい外へ向かう細く黒い背中は、浮き彫りにされたように際立っている。
「……ってぇ」
「四人ってところですね」
「殺すなよ」
「しませんよ。……約束しましたからね」
 薄らと微笑んだその横顔には、先程までなかった光が差していた。剣呑な、光。
 天蓬の後ろで、散らばっている敵の数と位置を目で測っていた捲簾は、床に何か重い物が放られる音に気付き、顔を上げた。
「―――……天蓬……? ……お前!」
 止める間もなくその黒い影は俊敏に走り出した。床に放り投げられていたのは彼の唯一の武器である刀。それを無くして今の彼に残るのはその両手両足と経験による技量と勘、それのみ。
 どんな罵詈雑言を叫んでやろうかと一瞬考えた。しかしそれは言葉にならずに喉の奥で唸り声に変わり、捲簾は頭を抱えた。そしてすぐに懐の麻酔銃を確認し、彼の背中を追って走り出した。




「おにいちゃんも、だれかを刺しちゃうの?」
 数分前、『おにいちゃんはおにいちゃんなの?』という超難問を突きつけてきた少女(『お前は男か?』の意だったらしい)の再度の質問に、天蓬はゆっくりと睫毛を上下させた。これもまた答えるのが難しい質問だ。今日は麻酔銃も刀も携帯していないのが幸いした。
「……もしも誰かに刺されそうになっちゃったら、やり返すかもしれないですねぇ」
「でも、刺したらいたいよ」
「……そうですね」
 自分の膝にちょこんと座って顔を見上げてくる少女に、天蓬はへらりと笑った。彼女は一番初めにあの木の下で出会い、天蓬に怯えた目を向けた少女だった。一昨日負った背中の傷よりも、その少女の無垢な視線と言葉が痛い。一瞬伸ばした手を躊躇ったが、それを振り切って天蓬は少女の髪を撫でた。
「お兄さんたちは、皆が笑って過ごせるようにするために戦うんですよ。お兄さんも本当は誰も刺したくないんです」
「でも、しなきゃいけないの?」
「お仕事なんです」
「くるしいね」
「苦しいですねぇ」
「いたいね」
「……痛く、ないですよ」
 天蓬の顔を見上げた少女は、一瞬きょとんと目を瞠り、その後小さな頭をぶんぶんと左右に大きく振った。
「したくないのにしなきゃいけないのは、いたいよ」
「……お兄さんは、大人ですから」
「オトナになれば、いたくない?」
 不意に泣きたい気分になった。その衝動を、奥歯を噛み締めて堪える。泣き笑いのような、変な顔になっているだろう。
「ほら、やっぱりいたいんだ」
 少女はそう言って小さな手を伸ばしてよしよしするように天蓬の頭を撫でた。にこにこと、血に塗れた自分を責めるでもなく微笑む少女に、また、泣いてしまいたくなった。
「おにいちゃんが、したくないことしなくていいようになればいいね」
「……そうなったら、いいですね」
 笑って少女を見下ろすと、花が咲くような笑顔で少女は天蓬を見上げた。
「わたしが大きくなってね、そうしてあげる」
「……」
「おにいちゃんがだれも刺さなくていいようにね、するから」
 笑顔の少女の頬に、水滴がパタパタと落ちる。少女から笑顔が消え、大きく澄んだグレーの眸が見開かれる。それは雨なんかで誤魔化しようがなかった。
「やっぱりいたいの? おにいちゃん」
「そうですねぇ……痛かったことに、今更気付いたみたいです」
「?」
 少女が不思議そうに首を傾げるのに、天蓬は笑って自分と少女の頬を拭った。
「……じゃあ、約束しましょうか」
「やくそく?」
「貴女が、大きくなってこの世界を幸せにしてくれるんですよね?」
「うん!」
「そうしたらお兄さんは、もう絶対に誰も殺さないで、貴女が悲しまないような世界にするって、約束します」
 少女が突き出した小さくて温かい小指に、手袋から覗く傷だらけの自分の小指を絡ませる。少女はまた大きな笑顔を見せてくれた。
 温かくて、今まで出会った何よりも強い存在だった。



***



「……案外簡単に片付きましたね」
「俺が一番ビックリしてるっての……」
 パンパン、と汚れた軍服をほろいながら自分の副官がそう呟くのに、捲簾はがっくりと肩を落とした。あんなに本気になった彼を初めて見た。丸腰で銃を持った軍人に向かって突進して行く姿を見た時には本気で血の気が引いたのに、相手の構えた銃の銃身を掴んで力ずくで取り上げ投げ捨てて、その手を拳に変えて相手の頬に振り下ろした時には思わず駆け寄る足を止めてしまった。転がる、意識のない四人の男を一瞥して天蓬は鼻から息を吐いた。彼の拳は血に濡れていた。それも恐らく相手の鼻血だ。
 何か事情があるにしても、私情に揺り動かされる彼など初めてで、どう対応したものか戸惑ってしまう。先程彼が口走った“約束”というのも一体何のことなのか、訊いて良いのか良くないのかすら図りかねている。

「帰りましょうか」
「……いいのか、もう」
「ここにはもう何もありはしませんよ」
 汚れた拳を服に擦り付けながら、天蓬は笑って振り返った。
「何一つね」
 その笑顔が完璧すぎて、何だか見ていられなかった。捲簾はその笑顔から目を逸らして、彼の足元を見つめた。何か話そうとして、その唇は空回った。先程まで辺りを照らしていた月は既に雲隠れしている。暗くてよかった、と嘆息する。
「……帰るぞ」
 歯痒い思いで言葉を紡げど音になった言葉といえばそれくらいで、歯噛みする。俯き、立ち尽くす彼に背を向けて歩き出した。一人残された天蓬が、誰に宛てるでもなく呟くのを聴きながら。
 戦とは自分のイデアを貫くことだという彼の言葉が、今なら少し違ったニュアンスに聴こえるような気がした。

「……約束、守れませんでした」
 ぽつ、と水滴が頬に落ち、咥え煙草の火が消えた。しかしそれにも構わず、捲簾は振り返ることなく歩き続けた。意地っ張りの彼がこれ以上意地を張らなくて済むように。
「――――……ごめんなさい、守れなかった。」
 次々と落ちてくる水の雫が大地を打ち音を立て、彼の独り言を掻き消していった。












2006/8/4